Quantcast
Channel: ブログを終了致します。
Viewing all articles
Browse latest Browse all 20

この電車は西船橋に行く

$
0
0

イメージ 1

「すごく面白いわよ。絶対に好きだと思うわ」
会社の先輩(女性)がそう言って、頼みもしないのに本を貸してくれたの。
昨夜、友達と会う約束をしていたから、普段は乗らない電車に乗ったのよ。その本を持って。

運良く座れたから、本を広げて数分、全く面白くもない本に、全く集中できず、アタシは前々から思ってはいたけれど、つくづく、あの先輩とは会話も性格も噛み合わないと悟ったわ。
絵に描いたような素敵な先輩だけれど、こういった感性の違いは、努力や思いやりじゃ解決できない決定的な分岐点だわね。親しくなりたいかどうかの。

絶対に好きだと断言してくれた本が、あまりにもつまらなくて、広げては閉じ、閉じては広げを繰り返していたら、酔っ払いを忠実に再現したようなオッサンの2人組が、アタシの隣りに座ったの。
酒とタバコと油が混ざったようなドギツイ臭いが不快な一方で、愉快な事が始まりそうな気がして、アタシは本を鞄にしまったわ。

「この電車は西船橋に行きますかね~」
酔いを決して隠さない大きな声でハゲが話し出したの。
心の中でアタシはそっと呟いたわ。「ハゲ、行くわよ。安心して、ハゲ」
「行かないんじゃないか?」呂律が回らないデブが答えたわ。
「行かないの?」驚くハゲに「行かないよ」デブが素っ気なく答えて、「行くってば」心の中でアタシが答えたら、「行くでしょう」今度はハゲが予言を始めて、「行きませんね」デブが予言を的中させたかのように答えて、「だから行くってば」心の中でアタシが応戦したら、「行かなきゃそれまでだ」ハゲが諦めたの。

あらやだ。
それまでだってアンタ、どこに向かってるか分からない電車に乗ったの?
アタシの人生と同じ電車ね。ご乗車ありがとね。

しばらく2人は、もしも私が総理大臣だったら、というテーマでベロンベロンになりながら討論をしていたわ。間違いなく、アンタたちなんか当選しないのに、間違いなく、渡された本よりも楽しくて、ずっとずっと耳を傾けていたわ。
「消費税廃止」「所得税廃止」「一夫多妻制」「公共料金無料」「住宅手当」「海外旅行手当」「電車は無料」「米は無料」「病院は無料」「年金は50歳から」「浅田真央に金メダル」「選手全員に金メダル」「私もあなたも金メダル」

ざっくばらんな夢の国ね。
それに「同性愛歓迎」と「美容室無料」が加われば、アタシは間違いなく、アンタたちに総理大臣をお願いしたいわね。支持率だって結構高いはずよ。
次のテーマ、もしも私が会社の社長だったら、に移った瞬間に、ハゲがまた言ったの。

「この電車は西船橋に行きますかね~」
やだ。一回一回、この話題を挟むのかしら?
ハゲの問いにデブが答えたわ。「行くよ」
え…。10分前には、アンタ、行かないって力説していたわよね。
「いや、行かないね」今度はハゲが行かないに転じ、「いや、行くよ」デブが強い口調で言い切ったら、「いや、行かないよ」ハゲは断固として譲らなかったの。
「行かなきゃそれまでだ」今度はデブが諦めたわ。

逆になってるっつーの!!!
なぜ?どうして?なんで逆になるの?
ところでアンタたち、どこまで行きたくて乗ってるの?
志村けんと柄本明の芸者のコントを見ているようだったわ。アタシ、あれが大好きで、西船橋までくっついて行きたくなっちゃったの。親しくなりたいわ。

「年功序列」「週休3日」「6時間勤務」「毎年昇給」「無欠勤賞与」「飲み会手当て」「スーツ代支給」「新卒は要らない」「社員旅行は全員で韓国」「韓国に行ったら全員で焼肉」「焼肉手当て」「焼肉はカルビ」「カルビは胃がもたれる」「だから途中からタンがいいんだよ」「タンより私は海鮮の塩焼き」「鉄板取り替える?」「取り替えてもらった方がいいね」

アタシ、口を押さえるのも忘れて、大笑いしていていたわ。
どこに向かっているか分からない会話が、見事に成立しているんだもの。
アタシの人生より遥かに目的地が見えないのに、臨機応変に成立しているんだもの。

ところで。
そう切り出したのは、やっぱりハゲだったわ。
「この電車は西船橋に行きますかね~」
しかも、今度はアタシに聞いてきたの。右と左を間違えたようね。
今までの話の流れを全部聞いていたから、堪えきれなくて、声を出して笑っちゃったわ。

「行きますよ」
「行きますよね」アタシに同調してきたハゲに「だから行くって言ったでしょ」デブまでが同調してきたら、「さっきアンタ行かないって言ったでしょ」ハゲがデブに言い返して、「さっき行かないって言ったのはアンタでしょ」デブがハゲに詰め寄っていたわ。

1回ずつ、行かないって主張していたわよ。
ちなみに、もう1つ指摘すると、ほとんど無料の国で、ほとんど働かない人間たちが、韓国で焼肉ばっかり食べていたら、近い将来、日本という国は消えて無くなるわ。
やっぱり、鳩山の方が無難のようね。投票は取り消しよ。

友達と待ち合わせをしている駅について、アタシは西船橋まで一緒に行きたい彼らを残して、電車を降りたの。続きが聞きたくて、すごく降りたくなかったわ。
あんな身勝手なもしもシリーズ、他じゃ滅多に聞けないもの。

駅で興奮しながら、友達に話したの。
この友達は、分岐点が一緒の方向の子で、感性が似ているから、必ず笑ってくれる自信があったのよね。
やっぱりアタシの思っていた通り、大きな声で笑った後に、アタシに教えてくれたわ。

「この電車、西船橋には行かないけれどね」

あら…。どうしましょ。
でも、大丈夫よね、きっと。呂律の回らない豪快な声が耳によみがえったもの。
「行かなきゃそれまでだ」

もしもアタシが総理大臣になったら、アンタたち2人に金メダルを送るわ。そして、酔っ払いには専用の車両を作りたいと思うの。
そこには、想像を絶する愉快な空間があるはずだもの。

すごく面白いわよ。絶対に好きだと思うわ。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 20

Latest Images

Trending Articles





Latest Images